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2017.03.02 「成長神話」
「成長神話」

 「神話」と聞くと、皆さんはどんなことを思い浮かべるでしょうか。「古代の神聖な物語とか?」「神様が出てくるお話でしょう?」そうですよね。一般的なイメージとしては、この世界がどのように成立したのかを説明する宗教的な物語=創世神話のことが頭に浮かんできますよね。全知全能の神や圧倒的な力を持つ英雄が登場してくるようなオハナシです。現代人である皆さんの目から見れば「科学的な説明とは言えない」ということになってしまい、古代人の作り話に過ぎないと認識されてしまいます。そのために「神話」といえば「物語的なもの」「空想的なもの」もっと言うならば「荒唐無稽(こうとうむけい)なもの」を意味することにもなるのです。現代に置き換えるなら、「マンガ」に近い意味合いになるのでしょうか。忍術を駆使した超人的なバトルを描いた作品とか、ありますよね。けれども古代人にとっては、単なる空想ではなく紛れもない事実(信じうるに足る出来事)として考えられてきたのですよ。ここがマンガと違うところといえるでしょうか。
 このことから転じて、根拠も無く絶対的事実だと思われている事柄をたとえて「◯◯神話」と表現することがあります。「安全神話」という言い回しを皆さんもテレビニュースなどで耳にしたことがあるのではないでしょうか。「絶対に安全です!」と繰り返し強調されていた施設が、あっさりと壊れてしまった…。想定外の出来事でした、と釈明したところで言い訳にもならないはずですが、誰もが「まさか本当に壊れることがあるなんて思いもしませんでした」と口をそろえてしまう。「安全」を単なる空想ではなく、紛れもない事実であると信じていたがゆえですよね。「神話」とたとえられるのはこのためです。これが「マンガ」であれば、「安全マンガ」という言い回しとなり、こう言ってしまえば誰も「絶対に安全だ」なんて思いもしなかったでしょうにね。
 さて今回取り上げた四字熟語は「成長神話」です。「成長神話の終わり」や「成長神話からの脱却」といったフレーズが盛んに使われているように、最近では「ずっと成長が続くなんて考えるのは間違いだ!」という論調が主流です。ここでいう「成長」とは、もちろん「経済成長」のことです。どこの国の政治も経済成長を最大の目標にしているのですが、結局それは幸福や満足とは結びつかないのではないか?という批判がなされているのです。「経済成長は幸福を作りだすものではなく、不幸によって維持されるものなのだ」といったようにね。この逆説が理解できるならば、あなたの読解力は極めてハイレベル!ですよ。
 経済「成長」などと言わずに、経済「拡大」と言えば、神話的なニュアンスも薄れて実情に即したものになるのですが…そこはやはり「成長」というマジックワードが鍵となっているのでしょう。「子供の成長」という表現に典型的なように、誰もが望む肯定的な事柄を意味しているのが「成長」という言葉なのですから。先生に「お、随分と成長したな!見直したよ」と声をかけられて、不愉快な思いをするなんてことはありえないでしょう?日々の学習を続けていても、本当に学力が身についているのか…なかなか自分では確認できませんからね。思ったようにテストの点数が上がらないときには、なおさらです。「勉強の仕方が間違っているのだろうか?」「このまま続けても意味がないのでは…」、マイナスの思考が募ってしまいます。そんなときに、「間違いなく成長している!」と、客観的に指摘してもらえたら、どれほど勇気づけられるか。
 教育の世界では「成長神話」は不滅だと思いますよ。昨日よりも今日の自分は前進している。今日よりも明日の自分は力をつけている。そう思えばこそ、継続して学習ができるのですから。経済「拡大」神話は、子どもの成長を願うポジティブな思いの流用に他ならないということです(笑)