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2018.08.11 未来予測
 「未来予測」

 私が子どもだった昭和の時代にも「○○年後には☆☆が実現する!」といった未来を予測した記事であふれていました。1970年に開催された大阪万博のテーマが「人類の進歩と調和」でしたからね。科学技術は日進月歩で発展し人類はどこまでも進歩していく!という未来を誰も疑いませんでした。「2015年には人型ロボットが人間と共存している」という予測を信じきっていた私は、ロボット工学を専攻する研究者になって活躍する将来を夢みていました。「ハカセ!たいへんです。ちょっとこっちにきてください!」と、みんなから頼りにされる科学者に憧れていたのです。そうしたたくさんの未来予測の中でも特に幼い私の記憶の中に強烈なインパクトをあたえた記事がありました。それは「20XX年ついに人間は死ななくなる!」というものです。映画か何かの宣伝ポスターだったと思うのですが、21世紀に実現されると予測したことが年表形式でまとめられていました。その年表の最後に記されていたのが「人間は死ななくなる」だったのです。小中学生には信じられないかもしれませんが、この頃の日本人男性の平均寿命はまだ60歳代だったのです。現在では高齢者ともいえないような年齢でしかありません。そんな時代に「人間の寿命はどこまでものびるはずだ」という願望をストレートに表明したのが、この表現だったのでしょう。
 平成も30年が過ぎて、いよいよ次の時代が始まろうとしている現在、あらためて未来予測が様々に語られています。とりわけAI(人工知能)技術の発達は目覚しく、例えば「10年後にAIにより多くの仕事が淘汰される」だの、「2045年にはシンギュラリティ(技術的特異点:人工知能が人間の脳を超えてしまう地点)に到達する」だの、皆さんも耳にしたことがあるのではないでしょうか。しかしそれ以上に、社会のあり方を根本的に変えてしまうような状況になることが確実視されています。多くの人が100年の人生を生きることが当たり前になる時代=「人生100年時代」の到来です。現在の小中学生の世代については、すでに半数の人たちが百歳まで生きるだろうと予測されているのですよ。寿命がのびるというのは人間の変わらぬ夢ですよね。でもだからといって、それで社会のあり方がどのように変わるというのでしょうか?
 「人生100年時代」というのは、英国ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットンさんが、長寿時代の生き方を説いた著書『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』で提言した言葉になります。日本でもベストセラーになった本ですが、サブタイトルが「100年時代の人生戦略」というのです。この「人生100年時代」という言葉は2017年の流行語大賞にもノミネートされました。さらには「人生100年時代構想」として日本政府の重要政策のひとつに位置づけられるまでになっています。
 グラットンさんは、寿命がのびて100歳を超えるようになれば、これまでのライフコース(個人が一生の間にたどる道筋のこと)を大きく見直さなくてはならないと主張しています。従来80歳程度という平均寿命を前提にして、20歳代までは「教育を受ける」期間として、60歳代までは「仕事をする」期間として、80歳代までが「引退して余生を過ごす」期間として、人生には独立した三つのステージがあると考えられてきました。小中学生は人生でたった一度しかない「教育を受ける」期間を過ごしているのであり、私はこれまた一度しかタイミングのない「仕事をする」期間を過ごしているということですよね。高校・大学まで教育を受け、新卒で会社に入って仕事を続け、定年で引退して現役を終え老後の暮らしを送る。すなわち「教育」→「仕事」→「引退」というライフコースです。とても単純ですが明確ですよね。確実で安定した時代背景に基づいているからです。ところがこれからの時代は、より複雑で曖昧になり、不確実性が増して、どんどん不安定になります。確かな答えがない、という新しい局面を迎えることになるのです。これまでのコースは通用しなくなるでしょう。
 ではこれからの人生100年時代において、何が重要になるのでしょうか?グラットンさんが真っ先に挙げているのが教育です。新しい時代に向けて、いまもっとも大きな変化が起こっているのが教育の分野なのです。日本でも2020年度から新しい学習指導要綱が全面実施されます。そこでは「未知の社会を生き抜く力を育む教育」が目指されています。将来の予測が難しい社会の中でも、未来を創り出していくために必要な資質・能力を確実に育むために必要なこと。それは定められた手続きを効率的にこなすだけでは足りません。直面する様々な変化を柔軟に受けとめ、感性を豊かに働かせることが求められるのです。答えがないわけですから、自分なりに試行錯誤しなくてはなりませんし、また多様な他者と協働することも必要になるでしょう。予測できない変化に受け身で対処するのではなく、主体的に向き合って関わり合い、その過程を通して自らの可能性を発揮していかなければなりません。何だか大変そうですね(笑)。でも人間の夢だった長寿社会を実現したのですから、「望むところだ!」と、未来を創っていきましょう!