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2019.07.31 目からうろこ
 「目からうろこ」

 「目からうろこという実感がなければ、情報として伝わることはありませんよ!」と、情熱的に語ってくださったのは、東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢教授です。高齢者医療の最前線で活躍しながら、政府の諮問機関にも専門委員として参画して活発な提言をなさっている先生です。直接お話をうかがう機会があったので、いくつか質問もさせていただきました。寝たきりの高齢者にならないようにするためには予防が大切である!というテーマでしたから、私の教え子たち(小・中学生)にとっては、まったくといっていいほど関係のないお話になります(笑)。私も「これは小・中学生にとっても大切な内容だから、しっかりと質問して教え子たちに伝えよう」とは、少しも考えていませんでした。実際、お話の中では「筋肉量の低下にともない身体能力は落ちていってしまうので、筋肉量を維持するためにタンパク質を摂取することが極めて重要である」ということが強調されていたのですから。小・中学生にタンパク質の重要性をわざわざ伝えようとは思いませんよね。ところが、お話をうかがっているうちに「これは教え子にも伝えなければ!」と気づかされたポイントがあったのです。それが冒頭で紹介した「目からうろこ」という情報の力になります。
 「目からうろこ」というのは「目からうろこが落ちる」という言い回しを略して使っているものです。もともとはキリスト教の新約聖書の中の言葉になります。「すると、たちまち目からうろこのようなものが落ち、サウロは元どおり見えるようになった」(『新約聖書』 使徒言行録9章18・19節)。うろこで目をふさがれた状態でよく見えなかったものが、急にそのうろこが落ちて鮮明に見えるようになったということから、本来は宗教的な意味で「誤りを悟って迷いから目覚める」という内容だったのですね。今では「あることをきっかけに、わからなかったことが急に理解できるようになることのたとえ」として使われるようになっています。今回紹介している「目からうろこ」体験というのも、「お話をきっかけに、なるほどそういうことか!と理解することができた」という意味で使っています。
 さて、タンパク質の摂取が重要だというお話でした。先生はおっしゃいます。「健康のために必要なことなんて皆さんわかっていますよ。適度な運動、規則正しくバランスのとれた食事、質のよい十分な睡眠。情報がたくさんあふれている時代ですから、だいたいのことは皆さん知っている。タンパク質をとりましょうという話だって『初めて聞きました。そんなに健康に重要なことだったのですか』なんて驚く人はいませんよ。」高齢者の方々を対象にした健康セミナーでお話をしている場面を想像してみてください。健康な体を維持するためには一日にタンパク質を60g摂取しなくてはなりませんよ、と説明したとしても「大丈夫ですよ先生、お肉だってお魚だって食べていますから」と、聞き流されるのがオチだというのです。だからこそ、伝え方に工夫を凝らさなければならないのです。「では一日にお肉をどれくらい食べていますか?」という質問をして「お肉ばかりではないですが、豆腐や納豆だってタンパク質でしょ?100gくらいは合わせて食べていますよ!」と自分たちが食べている量に関心を向けさせます。「では200gのステーキをペロリと食べられますか?」と、あえて挑発的な?質問をして「毎日は無理でも、まだまだそれくらいは食べられますよ!」との発言を引き出して、これで文句はないでしょうと思わせるのです。そして最後に「では200gのステーキに含まれるタンパク質の量は何gだと思いますか?」と畳みかけるように質問をして「えっ?」と考えさせるのです。お肉を200g食べればタンパク質も200gとったことになると単純に考えていた人はあわてます。お肉はタンパク質のかたまりだと思っていましたからね。そこで遠慮がちに「100gくらいでしょうか?」と半分ほどに下げて答えてみて様子をうかがう人が多いのだそうですが、正解を聞いて衝撃を受けます。「200gのステーキには35gのタンパク質しか含まれていませんよ。」「なんですって!では60gのタンパク質をとろうとすればステーキを何g食べなくちゃいけないんですか!そんなには無理ですよ!」とようやく「自分のこと」として受けとめることになるというのです。「目からうろこ」の知識であってこそ、行動に影響をあたえることができるのです。
 「健康になるための情報」を伝えたとしても、それを「自分のこと」として受けとめて、行動や生活を変えようと思えるまでにはなかなかいたりません。そうした相手の心にまで届くのが「目からうろこ」と感じさせる情報の力だというのです。このことを「学力をアップさせるための情報」に置きかえれば、小・中学生にとっても切実な話題ではないでしょうか。「全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)」の分析結果が文部科学省から公表されました。学力が高い生徒がどのような生活習慣にあるのかが明らかになっているのです。「朝食をしっかりと食べる」「本や新聞などに親しむ」そんな生徒は学力が高い傾向にありますよ!と、耳にたこができるほど聞かされた内容でしょう。それを「自分のこと」として受けとめるためには、やはり伝える側の工夫も必要だということですね。「朝食をしっかり食べる」の「しっかり」とは具体的にどういったことなのか?という問いかけが不可欠です。時間をかければいいのか、量を増やせばいいのか、品目を増やせばいいのか、家族との会話が必要なのか、一歩ふみ込まなければ朝食のイメージが共有されませんよね。「本や新聞などに親しむ」というのも「親しむ」とはどのレベルなのか?具体的な数字に落とし込まなくてはなりませんよね。せっかくの国家プロジェクトなのですから、分析の結果を生徒に伝える際の工夫にこそ意を注ぐべきであるということを、教育委員会に対しても求めていこうと思います!