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 「ふるさと歴史館」

 文京区には「ふるさと歴史館」という施設がありますが、文京区を「ふるさと」だと感じるというのは、そもそもどういった感情なのでしょう。田舎であれば「ふるさと」といえば自然の景観がイメージされます。文部省唱歌の『ふるさと』に描かれているような「兎追いし山」だの「小鮒釣りし川」だの、いつまでも変わらない原風景が思い浮かぶのでしょう。ところが都心も都心にある文京区であってみれば、「変わらぬ姿をとどめているもの」など、そうありはしないわけです。あえて言えば、建て替えサイクルの長い「不動産」こそが、今も昔と同じ姿で残っているものなのでしょう。とりわけ、子どもの頃から馴染みになっている「お店」などは、高齢者となってからも懐かしさとともに「ふるさと」を感じさせるものであると思います。
 ちょうど一年前の1月31日、惜しまれながら閉店した『江知勝』さんはご存知のことでしょう。明治4年(1871年)創業の老舗のすき焼屋さんでした。明治の初めから続いたお店ですので、すき焼屋というよりも文明開化の象徴である牛鍋屋と呼ぶのがふさわしい雰囲気がありました。菊池寛が川端康成と横光利一を引き合わせて「牛鍋をごちそうした」お店であり、つまりは新感覚派が誕生した場所であり、ひいては川端康成をノーベル文学賞に導いたお店であるともいえるのです。川端康成による直筆の芳名録も残されていますからね。
 自民党文京区議団は、『江知勝』さんの歴史的価値と区民の愛着をうったえて、文京区の「ふるさと歴史館」からのアプローチを求めました。「ふるさと」を懐かしむということの意義をあらためて区にも認識してほしいとの思いからです。高齢者の居場所作りと思い出作りに欠かせない「不動産」の公共的な価値は、しっかりと評価すべきです。人生の晩年においては活動範囲も狭くなります。生まれ育ち住み慣れた場所で、自らの人生を振り返りつつ、懐かしい「ふるさと」を感じながら自分らしい生活を最期までおくれるようにすること。地域共生社会の実現が目指されています。国はこれを「我が事・丸ごとの仕組みづくり」と呼んでいます。
 5年後の2025年には4人にひとりが75歳以上という状況に日本は突入します。制度の「縦割り」や、これまでの「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域の多様な主体が「我が事」として参画し、分野を越えて「丸ごと」つながることで、本当の意味で地域特性を活かした「文京区版地域包括ケアシステム」の構築が求められているのです。様々な分野との協働を通じた重層的なセーフティーネットをつくりあげること。それは「ふるさと文京」の価値を高めていくものだと確信しています。