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2021.05.06
梅干しでおにぎり条例
和歌山県みなべ町「梅干しでおにぎり条例」
和歌山県はその全域が日本一大きな紀伊半島に含まれているという特徴があります。県全体が太平洋に向かって突き出している、といった様子ですね。突き出した先は本州最南端ということになりますよ。(最先端は潮岬といいます。覚えておきましょうね。)そのため温暖な気候にも恵まれていて、さまざまな果物が作られていることでも有名です。みかんや柿、はっさくやイチジクなど種類も豊富。でも今回注目したいのは梅です。「え?梅って果物ですか?」という質問を時々受けますが、木になる実ですから果物ですよ。「そうじゃなくて!梅って生で食べられないじゃないですか?」その通りです。青梅には毒性がありますので要注意です。そんな梅を食用にするための知恵として、梅干しや梅酒に加工するのですよね。「だから梅干しは果物なんですか?って聞いているんです!」なるほど、鋭い指摘です。梅干しは果物屋さんでは売っていませんものね。確かに果物ではなく漬物です(笑)。ですから、和歌山県は梅干しの原料となる梅の生産日本一だ!と理解しておいてください。
春先の気持ちのいい季節に和歌山県をドライブした経験がありますが、その時には渋滞に巻きこまれて大変な思いをしました。目的地は高野山だったのですが、多くの車が高野山に向けて殺到していたので渋滞した…というわけではありません。確かに平成16年に「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録されてから、観光地としての知名度が上昇して多くの観光客が訪れるようにはなりました。けれども大渋滞を引き起こすというような混雑ぶりではありません。では、私が巻きこまれた渋滞は何だったのか?それは「お花見渋滞」だったのです。
お花見といっても桜ではありません。山沿いを走るごく普通の道路なのですが、隣接する山が大変なことになっていたのです。山といえば何色でしょうか?皆さんは図工の時間に海や山の絵を描いた経験はありますよね。山の色をぬりなさいと言われれば緑色を使うのが普通でしょう。ところがこの山はピンク!なのです。車から見える山は普通に緑色をして連なっていました。そこに突然、ピンク色をした山が現れたのです。現実とは思えない、一種異様な光景です。そうした驚きをもって車から窓の外を眺めてしまうと、自然にゆっくりと走行するようになり、これまた自然に渋滞が引き起こされてしまうのでした。なんと山全体を梅の木に植え替えてしまっているのですね!このことが可能になるには、山を自分の思うようにできる所有者がいなければなりません。和歌山県の山は私有林が多いという背景がそこにはあります。あたり一帯の山を所有する山林地主が存在するのです。戦後GHQの指示で行われた農地改革によって戦前日本の農村を特徴づけていた地主制度は解体されました。ところが山林についてはその対象とならなかった、ということも知っておきましょう。
そんな全国一の梅の産地、和歌山県のみなべ町で、おにぎりを作るときは具を梅干しにするよう呼びかける「梅干しでおにぎり条例」が制定されたのは、平成26年のことでした。正式には「みなべ町紀州南高梅使用のおにぎり及び梅干しの普及に関する条例」といいます。ここに表記されている「南高梅」というのがブランドになっていて、その名を全国に知られています。大粒でおいしいと評判です。みなべ町はその南高梅の発祥の地なのです。この町の役場には日本で唯一の「うめ課」があります。住民福祉課や税務課にならんで堂々のうめ課です。梅を専門に担当する行政部署ですよ。もちろん課長もいらっしゃいます。みなべ町では、梅に関連した農業・商工業の出荷額が年間300億円近くに達しており、生産のみならず、加工・流通・各種商品化と販売の拠点も集積しています。いわば町の基幹産業になっているのですね。ところが近年、梅干しの消費は伸び悩んでいます。総務省の家計調査によると、わが国の梅干し消費量はピークだった1999年には1世帯当たり年間1897円(866グラム)だったのですが、2013年には1266円(754グラム)にまで減ってしまっているのです。このことの背景には、食の多様化(洋風化)ということがあげられます。朝食には「ごはんとお味噌汁にお漬物や納豆」といった和風のメニューよりも、「パンとソーセージにヨーグルト」といった洋風のメニューが好まれるようになり、若い世代を中心に全国的に梅干し離れが進んでいるのです。
このことに危機感を抱いたみなべ町が条例制定にふみきったわけです。条例とは地方自治体が制定するいわば法律です。違反すれば罰せられることにもなります。「え!おにぎりに梅干しを入れないと捕まっちゃうんですか!」とあわてないように。確かに条例の場合、地方自治法14条で罰則規定を設けられる、とあります。したがって、条例違反の行為について罰則規定がある場合は本当に犯罪となります。ですが、その罰則規定がない場合も多いのです。「梅干しでおにぎり条例」もそうです。罰則規定はありません。梅干しを使ったおにぎりを奨励することで、梅の消費拡大につなげることが狙いなのです。条例を制定して梅干しの地産地消を進め、それを全国に発信していこうとしているのですね。実際にメディアにも多数取り上げられて、アピール効果は抜群の条例となったのでした。
和歌山県はその全域が日本一大きな紀伊半島に含まれているという特徴があります。県全体が太平洋に向かって突き出している、といった様子ですね。突き出した先は本州最南端ということになりますよ。(最先端は潮岬といいます。覚えておきましょうね。)そのため温暖な気候にも恵まれていて、さまざまな果物が作られていることでも有名です。みかんや柿、はっさくやイチジクなど種類も豊富。でも今回注目したいのは梅です。「え?梅って果物ですか?」という質問を時々受けますが、木になる実ですから果物ですよ。「そうじゃなくて!梅って生で食べられないじゃないですか?」その通りです。青梅には毒性がありますので要注意です。そんな梅を食用にするための知恵として、梅干しや梅酒に加工するのですよね。「だから梅干しは果物なんですか?って聞いているんです!」なるほど、鋭い指摘です。梅干しは果物屋さんでは売っていませんものね。確かに果物ではなく漬物です(笑)。ですから、和歌山県は梅干しの原料となる梅の生産日本一だ!と理解しておいてください。
春先の気持ちのいい季節に和歌山県をドライブした経験がありますが、その時には渋滞に巻きこまれて大変な思いをしました。目的地は高野山だったのですが、多くの車が高野山に向けて殺到していたので渋滞した…というわけではありません。確かに平成16年に「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録されてから、観光地としての知名度が上昇して多くの観光客が訪れるようにはなりました。けれども大渋滞を引き起こすというような混雑ぶりではありません。では、私が巻きこまれた渋滞は何だったのか?それは「お花見渋滞」だったのです。
お花見といっても桜ではありません。山沿いを走るごく普通の道路なのですが、隣接する山が大変なことになっていたのです。山といえば何色でしょうか?皆さんは図工の時間に海や山の絵を描いた経験はありますよね。山の色をぬりなさいと言われれば緑色を使うのが普通でしょう。ところがこの山はピンク!なのです。車から見える山は普通に緑色をして連なっていました。そこに突然、ピンク色をした山が現れたのです。現実とは思えない、一種異様な光景です。そうした驚きをもって車から窓の外を眺めてしまうと、自然にゆっくりと走行するようになり、これまた自然に渋滞が引き起こされてしまうのでした。なんと山全体を梅の木に植え替えてしまっているのですね!このことが可能になるには、山を自分の思うようにできる所有者がいなければなりません。和歌山県の山は私有林が多いという背景がそこにはあります。あたり一帯の山を所有する山林地主が存在するのです。戦後GHQの指示で行われた農地改革によって戦前日本の農村を特徴づけていた地主制度は解体されました。ところが山林についてはその対象とならなかった、ということも知っておきましょう。
そんな全国一の梅の産地、和歌山県のみなべ町で、おにぎりを作るときは具を梅干しにするよう呼びかける「梅干しでおにぎり条例」が制定されたのは、平成26年のことでした。正式には「みなべ町紀州南高梅使用のおにぎり及び梅干しの普及に関する条例」といいます。ここに表記されている「南高梅」というのがブランドになっていて、その名を全国に知られています。大粒でおいしいと評判です。みなべ町はその南高梅の発祥の地なのです。この町の役場には日本で唯一の「うめ課」があります。住民福祉課や税務課にならんで堂々のうめ課です。梅を専門に担当する行政部署ですよ。もちろん課長もいらっしゃいます。みなべ町では、梅に関連した農業・商工業の出荷額が年間300億円近くに達しており、生産のみならず、加工・流通・各種商品化と販売の拠点も集積しています。いわば町の基幹産業になっているのですね。ところが近年、梅干しの消費は伸び悩んでいます。総務省の家計調査によると、わが国の梅干し消費量はピークだった1999年には1世帯当たり年間1897円(866グラム)だったのですが、2013年には1266円(754グラム)にまで減ってしまっているのです。このことの背景には、食の多様化(洋風化)ということがあげられます。朝食には「ごはんとお味噌汁にお漬物や納豆」といった和風のメニューよりも、「パンとソーセージにヨーグルト」といった洋風のメニューが好まれるようになり、若い世代を中心に全国的に梅干し離れが進んでいるのです。
このことに危機感を抱いたみなべ町が条例制定にふみきったわけです。条例とは地方自治体が制定するいわば法律です。違反すれば罰せられることにもなります。「え!おにぎりに梅干しを入れないと捕まっちゃうんですか!」とあわてないように。確かに条例の場合、地方自治法14条で罰則規定を設けられる、とあります。したがって、条例違反の行為について罰則規定がある場合は本当に犯罪となります。ですが、その罰則規定がない場合も多いのです。「梅干しでおにぎり条例」もそうです。罰則規定はありません。梅干しを使ったおにぎりを奨励することで、梅の消費拡大につなげることが狙いなのです。条例を制定して梅干しの地産地消を進め、それを全国に発信していこうとしているのですね。実際にメディアにも多数取り上げられて、アピール効果は抜群の条例となったのでした。
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