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2021.06.02 鍋条例
 青森県南部町「鍋(なべ)条例」

 青森県は本州の最北端にあります。緯度でいうならば北緯40度12分から41度33分までの範囲、町名でいうと田子町から大間町までの間に位置することになります。この青森県最北の町名には聞き覚えがありませんか?そう「大間マグロ」で有名です!一匹の値段が一億五千万円を超えたこともあるんですよ。津軽海峡をおよぐクロマグロを一本釣りで釣り上げるというのはロマンがありますよね。地球儀で青森県とほぼ同じ緯度にある都市を確認してみましょうか。するとニューヨーク(アメリカ)、北京(中国)、ローマ(イタリア)、マドリード(スペイン)といった世界を代表する大都市がならんでいることも分かりますよ。
 さて、そんな青森県のある町で、おもしろい条例が制定されています。通称「鍋(なべ)条例」です。「青森県で鍋」と聞いたとき私の頭に真っ先に浮かんだのが、青森県が生産量で1位を誇る食材を使った鍋でした。リンゴを使ったまるでスイーツのような斬新な鍋か?ニンニクやナガイモを使って健康に配慮した薬膳鍋か?サバやイカといった水揚げ量1位の食材を使った海鮮鍋か?想像するだけで食べてみたくなりますよね。青森県は全国有数の農業産出県であり、漁業においても全国有数の水揚高の八戸港がありますから。さらに想像をたくましくすると、「縄文鍋」というアイデアもわいてきます。青森県内では縄文時代の遺跡が数多く出土しており、とりわけ三内丸山遺跡は有名ですよね。縄文人の住居跡や縄文土器、土偶などが各地で発見されています。例えば、縄文土器を使ってイノシシや鹿の肉といった最近流行のジビエ食材とクリ(三内丸山遺跡ではクリが栽培されていました)を煮込んだ縄文式鍋?なんてどうでしょうか!
 勝手な想像はさておき、鍋条例のお話に戻ります。この条例にはキャラクターまで存在するのです。その名も「なべまる」。顔のついた土鍋のキャラクターです。頭のふたを開けると中には、長ネギ・しいたけ・かまぼこ・豆腐…といった具材がならんでいます。ここで私は首をかしげるのでした。なぜ長ネギが描かれているのだろうか?と。長ねぎの生産が盛んな県といえば、千葉県や埼玉県や茨城県です。人口が集中する大消費地に近い農地で作られる典型的な近郊農業になります。首都や大消費地から遠い青森県は、近郊農業とはあまり関係がないはず。しいたけについてもそうです。生しいたけの産地としては徳島県が、干ししいたけといえば大分県が有名です。どちらの生産についても青森県がランキングに出てくることはありません。では、かまぼこは?海の幸にかかわることですから、青森県にも期待できます。それでもかまぼこの生産では、新潟県や兵庫県、笹かまぼこで有名な宮城県がランクインしていますが、青森県をみかけることはありません。豆腐にいたっては消費量ランキングで青森県は40番台。あまり豆腐を食べない県、という認識になります。ですからキャラクターに描かれているのは、あくまでも一般的な鍋のイメージということであるようです。私が妄想した奇をてらったようなオリジナル鍋ではなく、ごく真っ当な鍋を想定していることは、条例の趣旨を読むと実はよく分かるのです。
 青森県南部町で「鍋条例」が制定されたのは平成24年のことでした。正式には「笑顔あふれる明るいコミュニケーション推進条例」という名称になります。「鍋条例」というのは通称なのです。その目的はというと、「町民が鍋料理を囲み、食べ物のありがたさや自然の恵みを感じて、たくさん食べることで、家族のだんらんや仲間との語らいが自然に活発なコミュニケーションの場となり、笑顔あふれる家庭となり子どもの健全育成及び仲間意識を醸成し、町の活性化に寄与する」ということになります。核家族化やライフスタイルの多様化により、家族がそろって食事をするだんらんの機会が減り、食生活も多様化しています。一人で食事をする「孤食」や、同じ食卓に集まっていても、家族がそれぞれ別々のものを食べる「個食」が増え、家族そろって生活リズムを共有することが難しくなっているという背景があります。そして直接的なきっかけは、平成23年3月11日の東日本大震災の経験です。家族の絆や人々とのつながりの大切さを誰もが実感しました。そのため南部町では、毎月22日を「鍋の日」と定め、町民や関係機関が一体となって「鍋の日」の普及推進を図り、笑顔あふれる明るい家族や仲間とのコミュニケーションを深めよう!と決めたのでした。さて、なぜ鍋の日が22日なのでしょうか?それは「フーフー言いながら食べることの語呂合わせです」とのこと。
 「鍋の日」に合わせて「ノー残業デー」も実施しています。月に一度でも「残業しない日」を意識してつくることで、仕事の見直しや改善を進めようというのです。それが政府のいう「働き方改革」の第一歩にもなるというねらいがあります。「鍋の日」にはみんなで鍋を囲み、人と人とのつながりをあらためて考える日にしようという趣旨なのです。
 南部町の企画財政課に問い合わせたところ、「地元の食材をふんだんに使ったオリジナル鍋を梅沢富美男さん(料理好きな芸能人)に考案していただきました」とのこと。残念ながら私の妄想鍋を紹介するタイミングは逸してしまいました。また、地元のブランド食材として「南部太ねぎ」という伝統野菜があるということも教えていただきましたよ。