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 兵庫県香美(かみ)町「魚(とと)条例」

 兵庫県で制定されている面白い条例を紹介しますね。通称「魚(とと)条例」と言います。「魚を食べよう!」を合言葉に、魚食の普及を促進していく活動を繰り広げるというものです。「魚食」という言葉にもあまりなじみがないのではありませんか?魚食は「ぎょしょく」と読み、文字通り「魚を食べる」という意味ですよ。「魚食魚(ぎょしょくぎょ)」なんていう言葉もあります。アオザメのようにエサとして魚を食べる魚のことですね。
 兵庫県で「魚を食べよう!」と聞けば、皆さんはどんな魚を思い浮かべるでしょうか?「タイでしょ!タイ!明石のタイは有名です」「いやいや、明石といえばタコです!」潮流が速くて、プランクトンやエビ・カニなどのエサが豊富な明石海峡でとれた明石鯛と明石だこは、身が引き締まっていておいしいと評判ですよね。その明石海峡に架けられた明石海峡大橋は、兵庫県の神戸市と淡路市を結ぶ世界最長の吊り橋になります。大鳴門橋を経由すれば、神戸市から徳島県の鳴門市まで車で進むことができますよ。本州と四国が道路で直結された意義というのは大きいものがあります。大阪や神戸を中心とした関西経済圏と四国が直結したわけですから。日常生活はもとより物流や観光の面でも様々な効果をもたらしました。
 さて兵庫県は「五つの顔を持つ県」と呼ばれていることをご存知でしょうか。五つというのは旧国名区分に基づきます。摂津(せっつ)・播磨(はりま)・但馬(たじま)・丹波(たんば)・淡路(あわじ)の五つです。異なる歴史的背景とそれぞれに異なる地勢を持った五つの地域になります。旧国名は受験知識としても役に立ちますので、主だったところは覚えておきましょうね!四国を例に挙げますと、徳島県は阿波、高知県は土佐、愛媛県は伊予、香川県は讃岐になります。それぞれ、阿波踊り・土佐和紙・伊予柑・讃岐うどん、と伝統的な行事や産物と旧国名は分かちがたく結びついていますからね。特に伝統的工芸品は要チェックです。しっかりと頭に入れておきましょう!
 兵庫県の話に戻します。しかも魚の話でしたね(笑)。明石海峡をふくめた瀬戸内地域の話題が続いてしまいましたが、これは旧国名で言うならば摂津・播磨・淡路の話になります。瀬戸内海国立公園が広がる地域ですね。ところで兵庫県にはもう一つ国立公園があるのです。それは中国山地をはさんだ反対側の日本海に面した地域で、山陰海岸国立公園といいます。「えっ?兵庫県に日本海があるの!」と、知人が真顔で質問してきたことがあります。いい歳をしたオトナですよ。さすがに君たちは大丈夫だと思いますが、いいですか?兵庫県の日本海側は但馬地方と呼ばれています。あらためて「たじま」という読み方も確認しておいてください。間違えて「たんば」と読まないように。「たんば」は「丹波」ですからね。ブランド牛の元祖「但馬牛(たじまうし)」は、耳にしたことがあるのではないでしょうか。
 この日本海に面した但馬地方のまち香美町で制定されたのが「魚(とと)条例」なのでした。ですから、瀬戸内海からイメージされるタイやタコよりも、松葉ガニやカレイといった日本海の幸をここでは思い浮かべましょう!地域の水産振興、水産物の消費拡大、地域経済の活性化を図るために魚食普及を促進することを目的として、正式名「香美町魚食の普及の促進に関する条例」が制定されたのは平成26年になります。
 なぜ「魚を食べよう!」という活動が必要なのか。その背景には日本人の「魚離れ」があります。国民一人一日あたりの魚介類と肉類の摂取量において、肉類が初めて魚介類を上回ったのが平成18年、魚介類の摂取量は年々減少傾向にあります。食の西洋化が進むと共に、食が多様化しているのですね。その結果今では和食文化が危ぶまれ、同時に魚食文化も危機に直面しているのです。消費者の多くが調理の簡便化志向を強め、家庭で日常的に作られていた魚料理が親から子へ伝承されなくなっています。
ところが平成25年12月「和食:日本人の伝統的な食文化」がユネスコの無形文化遺産に登録されたことにより流れが変わりました。これを契機として、多くの日本人が和食文化を見つめ直すとともに、次世代に向けた保護・継承の動きにつながることが期待されるようになったのです。和食といえば、米・魚・野菜や山菜といった地域で採れる様々な自然食材を用いることを基本としていますから。「魚を食べよう!」という呼びかけが水産業のまち香美町でおこったのは必然とも言えるのでした。
 香美町の幼稚園・小学校・中学校では毎月20日に「ととの日メニュー」として町内産の魚を使用した同一メニューの給食が出され、地元食材への理解を深めています。日本一のふるさと給食の実現を目指しているそうです。さらに町内全中学校の生徒が、卒業するまでに必ず魚を三枚におろすことができるよう「中学生のふるさとの魚料理実習」も実施していて、町内産の新鮮な魚に触れる絶好の機会となっています。「どうして20日がととの日なんですか?」と香美町の農林水産課に問い合わせたところ「10(と)+10(と)で、20です」とのお答えでしたよ。