fc2ブログ
 愛知県東海市「トマトジュースで乾杯条例」

 今回取り上げるのは東海市で制定されたユニークな条例になります。ところで東海と聞くと皆さんは何をイメージするでしょうか?私には反射的に思い浮かぶ短歌があります。石川啄木の歌集『一握の砂』の冒頭に収録された一首「東海の小島の磯の白砂にわれ泣きぬれて蟹とたはむる」です。まるで日本列島を宇宙から撮影している衛星カメラが、海岸でカニに触ろうとしている男の指先へと一気に高速ズームしていくかのような情景描写ですよね。東海→小島→磯→白砂→蟹へと焦点を絞り込んでいくにつれ、空間が急速に縮小していくかのようなスピード感があります。皆さんの世代でしたら、グーグルアースの地図検索などでおなじみの映像体験なのかもしれませんが、石川啄木は今から百年以上前の明治、日清・日露戦争の時代を生きた人物ですからね。
 私はてっきりこの歌の舞台となっているのは静岡県あたりの海岸だと思っていたのですが、岩手県出身の啄木が函館市に移住して詠んだ歌らしく、北海道の海岸というのが定説らしいのです。東海には広く日本国という意味もありますからね。ではなぜ私は勝手に静岡県だと想像してしまったのでしょう?
 東海地方という表現があります。本州中央部の太平洋側を指すもので愛知県・岐阜県・三重県・静岡県の四つの県が含まれます。ここから静岡県と結びつけてしまったのですね。そもそもこの東海地方という地域を表す言葉は何に由来しているのでしょうか?時代は奈良時代にまでさかのぼります。律令制が整った天皇中心の中央集権国家のはじまりです。五畿七道という行政区画がありました。山城・大和・摂津・河内・和泉の五国と、東海道・南海道・西海道・東山道・北陸道・山陽道・山陰道の七道になります。皇宮周辺の五国は重視され、それ以外の地域は国の上に道という行政区分がしかれていました。ここで注意です。江戸時代の東海道をはじめとする街道は本当に人が行き来する道のことを指していますが、この時代の東海道は現在の北海道という表現と同じエリアを指す言葉だったということを確認しておいてください。北海道は街道じゃありませんよね。この東海道という地域は現在の東海地方よりもはるかに広い範囲を含んでいました。西は伊賀の国から、現在の三重県ですね、これは今と同じ。ところが東は常陸の国まで、なんと現在の茨城県になります。日本で最初に原子炉の運転が開始された茨城県の東海村も、奈良時代でしたら東海道に属することになるのですよ。ついでですので、東海の反対、西海も確認しておきましょうか!西海市はありますよ。長崎県西彼杵半島の北部に位置する市です。また西海漁場と呼ばれるアジ・サバ・イワシなどの世界的な漁場も有名です。九州地方の西方、東シナ海から黄海にかけての漁場になります。広大な大陸棚が広がり、北へ進む暖流の対馬海流と北からの冷水の流れがぶつかる潮境が形成されているのです。南海市は?残念ながらありません。けれども最近南海トラフという言葉をよく耳にしませんか。四国の南の海底にある水深4,000m級の深い溝(トラフ)のことです。非常に活発で大規模な地震発生帯として知られていて、マグニチュード8クラスの巨大地震が100年~200年ごとに発生していることから、現在警戒が強まっているのですよね。以上、東西南北の確認でした。
 閑話休題、東海市の条例の話です。愛知県の東海市は平成26年から「東海市トマトで健康づくり条例」を施行しています。トマトを活用した健康づくりを推進することを目的に制定されたこの条例では、毎月10日をトマトの日と定めるとともに、健康的な食生活に向けた意識の高揚を図るため、トマトジュースによる乾杯を推奨しています。
 工業生産額1位を誇る愛知県ですが、農業産出額でも上位に食い込んでいます。キャベツやトマトやブロッコリーといった野菜の生産も盛んなのですよ。地図帳で確認してみてください。渥美半島を中心とした地域には野菜のマークが並んでいますよね。でも知多半島の付け根にある東海市のあたりはというと、鉄鋼のマークはあっても野菜は…。東海市のトマト生産額がずば抜けているということはないようです。ではなぜトマト条例なのでしょうか?ヒントは「トマトジュースで乾杯」にあります。
 東海市はトマトジュースで有名なカゴメの創業者、蟹江一太郎さんが生まれたまちなのです。トマト王と呼ばれる蟹江さんは東海市の名誉市民にもなっています。東海市とカゴメは「トマトde健康まちづくり協定」を締結し、ともに市民の野菜摂取量の増加と健康寿命日本一を目指して取り組んでいるのです。こうした地元にゆかりのある企業と自治体との提携はよくみられます。大阪府の池田市はカップヌードルで有名な日清食品の創業者安東百福さんが世界初のインスタントラーメン「チキンラーメン」を発明したまちで、安藤さんは池田市の名誉市民でもあります。池田市に「ふるさと納税」すると、日清食品製品とひよこちゃんのオリジナルグッズの詰め合わせがもらえることで有名ですが、さすがに「インスタントラーメンで昼食条例」といったネタはありません(笑)。
 カゴメは条例制定を記念して、なんと「トマトジュースがでる“蛇口”」を東海市に寄贈しました。蛇口は移動式で、市内のイベントに不定期で登場するそうです。その際には先着で1010杯の提供があるとのこと。皆さんも東海市のホームページで神出鬼没の蛇口をチェックして、リコピンを補給してみてはいかがでしょうか!