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2021.11.28 金メダル条例
 福岡県大牟田市「金メダル条例」

 今回取り上げる条例は福岡県の大牟田市で制定されました。「おおむた」と読みますよ。福岡県の最南端に位置する大牟田市は、南と東が熊本県と接しています。福岡県の県庁所在地である福岡市からは南に約65kmの位置にあり、熊本市からは北西に約45km、佐賀市からは南東に約35kmと、むしろ他県の中心地からの方が近いくらいだということを地図帳で確認しておいてください。かつては三井三池炭鉱の石炭資源を背景とした石炭化学工業で栄えた都市で、1959年には最大人口208,887人を誇りました。しかしながらエネルギー革命(石炭から石油へと、エネルギー資源が急激に転換すること)によって石炭化学工業は衰退し、同炭鉱も1997年3月には閉山してしまいました。その後は、廃棄物固形燃料発電施設を中心とした環境リサイクル産業などの新興産業(エコタウン)や、立地条件を生かした大牟田テクノパーク(工業団地)への企業誘致などに力を入れています。現在の市の公式キャッチフレーズは『やさしさとエネルギーあふれるまち・おおむた』です。2015年7月には、三池炭鉱宮原坑・三池炭鉱専用鉄道敷跡・三池港が明治日本の産業革命遺産として世界遺産に登録されましたよ。
 そんな大牟田市の高齢化率は35.7%になります。この数字は市民3人に1人以上が65歳以上の高齢者であることを示しています。これは福岡県の高齢化率26.4%や、全国平均の高齢化率27.7%を大きく上回っています。この高齢者都市ともいえる大牟田市にあるのが、「100歳に達したら金メダルを贈呈する」というユニークな条例なのです。その名も「大牟田市人生トライアスロン金メダル基金条例」です。一度聞いたら忘れられないインパクトがありますよね。条文を見てみましょう。第1条には、「人生をトライアスロンにたとえ、100歳に達する高齢者に対し、その勝利者として金メダルを贈るとともに、より豊かな長寿社会の実現を推進するため、大牟田市人生トライアスロン金メダル基金を設置する」とあります。長生きを人生の勝利者と認定し、100歳以上で市に住民登録があり、市内に居住しているという条件を満たせば全員が金メダルの対象になる、というのです。でもなぜ人生をトライアスロンにたとえたのでしょうか?これには大牟田市の公式見解があります。「水泳、サイクリング、マラソンの3種目を連続して1日で行うという、大変な体力と技を必要とする厳しいスポーツで、別名、鉄人レースと言われる。これを人生に例えると、明治、大正、昭和、平成と激動の時代を1世紀にわたり生きてきたことが、山であり谷であり、まさに、トライアスロンレースである」というのです。ちなみにトライアスロン競技は、夏季オリンピックの正式種目として、2000年シドニーオリンピックから男女とも実施されました。けれどもこの条例が制定されたのはトライアスロンがメジャーになる前の1992年、今から26年も前のことになるのです。先見の明があるともいえますが、きっかけは市制75周年に当たるその年に市民から500万円の寄附があったことだそうです。これを基金に積み立てて運用しようというわけでした。ところがほどなく低金利時代(現在では、マイナス金利という超低金利時代!)に突入してしまったため、基金の増加はほとんど見込めません。それどころか基金の残高は209万6,900円と減少してしまっています。それに反して?高齢化はどんどんと進んでおり、金メダルの対象者はうなぎのぼりだというのです。5年ごとに見ると、1997年に7人だった受賞者が、2002年には18人、2007年には22人、2012年になると47人に増え、2017年では60人にもなったのです。今後この増加傾向が鈍ることはないでしょう。多くの人が100年の人生を生きることが当たり前になる時代=「人生100年時代」の到来が確実視されていますから。皆さんの世代については、すでに半数の人たちが百歳まで生きるだろうと予測されているのですよ。
 「人生100年時代」というのは、英国ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットンさんが、長寿時代の生き方を説いた著書『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』で提言した言葉になります。日本でもベストセラーになった本ですが、サブタイトルが「100年時代の人生戦略」というのです。この「人生100年時代」という言葉は2017年の流行語大賞にもノミネートされました。さらには「人生100年時代構想」として日本政府の重要政策のひとつに位置づけられるまでになっています。
 大牟田市の「金メダル条例」ですが、制度創設以来700名を超える市民の方々に金メダルを贈呈してきました。その金メダルは直径7.5センチメートル、厚さ5ミリ、重さは18グラムだそうで、金は本物ではありませんが金メッキがほどこされ、お値段は2,050円だとか。敬老の日の9月18日前後に市長や市の職員さんが手分けして、対象者を個別に訪問して直接お渡ししているのだそうです。
寿命が百歳までのびるというのは人間の夢ですよね。でもそのことで社会のあり方を変える必要性も生まれてきます。認知症対策や地域包括ケア体制の構築、元気な高齢者の就労支援や多様な社会活動参加の推進。そうした新たな政策の最前線にいるのが、住民にとって最も身近な行政機関である地方自治体なのですよ!