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 京都府京都市「しまつのこころ条例」

 今回紹介するのは京都府京都市で制定された条例になります。その名も「しまつのこころ」条例。「しまつのこころ」とは一体どういう意味なのでしょうか?私は出身が関西ですので耳にしたことがありますよ。特に京都弁での「しまつせなあかんえ」という言い方には、独特の雰囲気があります。辞書をひくと「始末(しまつ)する」という言葉には「片付ける」「処分する」と出ていますが、こうした意味ではありません。大きな辞書には「別の意味」として「つつましやかにして浪費しないこと」と載っていますが、これに近いですね。「倹約」という意味になります。でも「しまつせなあかんえ」には、もう一ひねりのニュアンスが加わっているのです。さて、それは何でしょうか?今回の「しまつのこころ条例」のキーポイントとなる意味なのです。
 古くから「京都の着倒れ、大阪の食い倒れ」という言い回しがあります。京都は着物に、大阪は飲み食いに、贅沢(ぜいたく)をして財産を失うという意味です。京都の人は衣装に大金をはたいて惜しまず、大阪人は食を大切にしてお金を掛けて楽しむ食道楽の気風があることを揶揄(やゆ:からかうこと)しているのですね。江戸時代の戯作(げさく:江戸後期の通俗小説類の総称)にはすでに登場している言い回しなんですよ。ちなみに江戸は?「呑み倒れ」と呼ばれています。江戸っ子はお酒を飲みまくっていた、という揶揄です。
 江戸時代の大阪は幕府の直轄地であり、諸大名の蔵屋敷も集中していました。諸国の米や特産物の取引の中心地となっていたのです。そこでついた名前が「天下の台所」ですよね。「食い倒れ」と呼ばれる条件がそろっていたのです。では京都の「着倒れ」は?京都の伝統的工芸品を思い出してみましょう。大変ですよ、京都府には十七点もの経済産業大臣に指定された品目がありますからね。ちなみに東京都は?なんと十八点で指定品目が最も多い都道府県になります!京都の伝統的工芸品を見てみると、西陣織をはじめ、京友禅・京扇子・京うちわ・京くみひも・京小紋・京繍(ぬい)・京鹿の子紋・京黒紋付染、といった和装(着物)に関連した工芸品が多いことがわかります。「着倒れ」と呼ばれるゆえんですね。西陣織とは京都西陣の地で生産される織物の総称です。西陣という地名は、応仁の乱 (1467~77) 当時、堀川をはさんで東側に布陣した細川勝元の「東陣」に対し、山名宗全が西側に布陣して「西陣」と称したことに由来するというのですから驚きですよね。
 さて京都の「しまつする」の意味です。ただの「倹約」とは違って、食材や物を有効に使い、無駄に捨てないように「一工夫」加えて、「使い捨て」ではなく「使い切る」ことを意味します。この「こころ」に基づいたのが「しまつのこころ」条例になるのです。
「ものを粗末にせず、大切にし、心豊かに暮らすことをはじめ、環境にやさしいライフスタイル・ビジネススタイルの定着を目指す」という思いがこめられた「愛称」として、市民から募集して命名されました。正式名称は「京都市廃棄物の減量及び適正処理等に関する条例」になります。平成27年10月に施行されました。ピーク時からのごみ半減の実現を目指し、これまでの施策を発展・強化するとともに、市民や事業者と市が協働して取り組むべき内容がより具体的に明示されました。人が暮らすところには必ずごみが出ます。ただ、その量や質は、時代によっても地域によっても様々です。現代のごみは量も多く、また自然に戻せない処理困難なものが増えてきました。その変遷を詳しく調べてみようとしたのが京都大学の環境科学センターという研究室です。京都市と協力して、家庭ごみを集めて組成を詳細に分析する調査を、毎年実施してきたのです。1980年にスタートしたといいますから、その歴史は長いですよね。その結果どんなことがわかったのか?驚いたことに食品ごみには「手つかず食品」など、まだ食べられるものも多かったというのです。売れ残りや食べ残し、期限切れ食品など、本来は食べることができたはずの食品が廃棄されていました。こうした状況を「食品ロス」「フードロス」といいます。
 ごみの削減に力を入れている京都市には「ごみ減量推進課」という部署もあります。力を入れるきっかけとなったのは、1997年12月に京都で開催された「京都会議」(気候変動枠組条約第3回締約国会議)です。温室効果ガス排出の削減目標を定めた「京都議定書」が採択された会議ですよね。これを受けて京都市では「世界の京都・まちの美化市民総行動」を実施しているのです。
 食品ロスに限らず、ゴミ全般を減らして循環型社会をつくるための基本は「3R」と言われます。「Reduce(リデュース:発生抑制)」「Reuse(リユース:再使用)」「Recycle(リサイクル:再資源化)」の三つです。この三つを、たった一つの日本語で表すことができると話題になったことがあります。2005年に京都議定書関連行事出席のため来日したワンガリ・マータイさんが日本語の「もったいない」という言葉を知って感銘を受けたのです。マータイさんはケニア出身の女性環境保護活動家でノーベル平和賞を受賞しています。「もったいない」という日本語の中には3Rの取り組みに加えて、かけがえのない地球資源に対する「Respect(リスペクト:尊敬)」の気持ちまで込められています。マータイさんは「もったいない」を3R+Rの環境活動をたったひと言で表す世界唯一の言葉だとして、世界に広めました。
 「しまつのこころ条例」では、3Rのうち、ゴミになるものを作らない・買わないといったリデュースと、再使用するリユースを特に推進しています。国の動きとしては「食品ロス削減推進法」が令和元年の10月1日に施行されたことも合わせて覚えておきましょうね。