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2022.12.04 茶の湯条例 
 島根県松江市「茶の湯条例」

 今回紹介するのは島根県松江市で制定された条例になります。松江市は島根県東部にある県庁所在地で、山陰地方のほぼ中央に位置しています。ここでいう山陰地方とは、最も広い意味で当てはまる地域を指していますよ。地理的には中国地方の日本海側という意味で使われることが多いのですが、その場合は鳥取県・島根県・山口県北部を指すことになります。でも歴史的に考えるならば、山陰地方とは古代日本の律令制に基づいて設置された行政区画である山陰道に該当する地域を意味しています。丹波国・丹後国・但馬国・因幡国・伯耆国・出雲国・石見国それに隠岐国の8国です。そうすると京都府北部と兵庫県北部が加わることになり、逆に山口県北部は外れることになります。これらを合わせて考えて、京都府北部から山口県北部に至る日本海側を範囲だとするのが最も広義の山陰地方になるのです。ちなみに山陰海岸国立公園の範囲は京都府・兵庫県・鳥取県にまたがる日本海沿岸部になりますからね。
 松江市に話を戻します。北は日本海に接する島根半島の北山山地、宍道湖と中海をちょうど挟み込むようにして、南は中国山地にまで広がる地域をふくんでいます。松江藩の城下町を中心に発展してきた山陰最大の人口を擁する中核市でもあります。鳥取県の境港市とも隣接していて、日本有数の水揚げ量を誇る境港にも程近いことが分かります。松江市出身の世界的なテニスプレーヤーである錦織圭選手が、全米オープンで準優勝をして帰国した際に「ノドグロが食べたい」と発言して話題になったことがありましたね。ノドグロというのはアカムツという魚の別名です。口の中が「黒い」ことから、そう呼ばれているのです。「白身のトロ」と言われるほど脂がのった高級魚として知られていますよ。松江市は海の幸が豊富であることも、錦織選手の発言のおかげで注目されるようになりました。
 さて松江といえば「お城にお堀にお茶とお菓子」というフレーズがあるくらいです。「お城」とは言うまでもなく松江城のことですね。松江市街の中心部にある亀田山に築かれた松江城は、慶長16年(1611年)に築城されました。天守は全国に現存する12天守の一つで、入母屋破風の屋根が羽を広げたように見えることから千鳥城とも呼ばれています。現存12天守をここで確認することはしませんが、そのうちの国宝に指定されている国宝五城については覚えておいていいと思いますよ。東から順に松本城(長野県)・犬山城(愛知県)・彦根城(滋賀県)・姫路城(兵庫県)・松江城(島根県)になります。松江城の天守からは市街地や宍道湖が見渡せる素晴らしい眺望です。
 「お堀」というのは松江城を囲む堀川のことで、松江城築城時につくられたものもありながら、その保存状態がよくて松江市は「水の都」「水郷」と称されることもあります。堀川を50分かけて小船で遊覧する観光コースは人気を博していますよ。こうした城下町のお堀を観光資源に利用するケースは他の地域にも見られ、特に滋賀県近江八幡市と福岡県柳川市はそれぞれ「近江八幡の水郷」「水郷柳川」と呼ばれる人気の観光スポットがありますので、こちらも覚えておきましょう。
 そして「お茶」に「お菓子」というのが、今回取り上げた条例に関わる項目になるわけです。松江市は「お茶といえば抹茶」という土地柄であるといわれています。普通にお茶をのむように、さらさらと薄茶をたててのむというのです。薄茶は、抹茶を約2gに90度以上のお湯を約60ml注いで、茶筅を使ってシャカシャカ泡立てるようにまぜて作るものですよ。「お茶を点(た)てる」というのはこのことをいいます。市内には抹茶とお菓子を楽しめる茶寮や施設も数多く点在しています。
 松江に「茶どころ」としての文化が根づいたのは江戸時代にさかのぼります。松江城主である松平家7代藩主松平治郷の功績です。茶道を家臣に定着させただけでなく、陶器や漆器、木工、茶菓子などの職人を地元で育成することにも力を注ぎました。茶道芸術を通して、建築や美術工芸や食の文化の発展をうながし、ものづくりの技量を高めたといわれています。それが今日の松江を支える産業となり、市民の暮らしを豊かにすることにつながっています。松江市は松平治郷の没後200年を機に「松江市茶の湯条例」を制定しました。2019年4月1日の施行です。茶の湯の文化と産業を将来的につなげていこうとするもので、市民も観光で訪れる方々も、茶の湯の心で松江に魅力を感じてほしいという願いが込められています。松平治郷の命日である4月24日は「茶の湯の日」と定められましたよ。ついでといってはなんですが、茶の湯を大成したのは千利休ですよね。その利休の出身地である大阪府の堺市には…やはりありました!「堺茶の湯まちづくり条例」です。施行されたのは、松江市に先立つ2018年10月1日になります。
 また、中学受験の時事問題として提供しておきたい情報があります。2019年開成中学の社会の入試問題に次のような正誤問題が出題されました。「ウラジオストクと同程度の経度にある境港との間に、船の定期便が就航している」○か×か?という問題です。正解は○、フェリーが運行されていました。松江市産の牡丹(ボタン:島根県の県花。松江市が生産量日本一)がロシアに輸出されてもいたのです。ところが新型コロナウイルス感染拡大の影響で世界的なロックダウン(都市封鎖)が実施され、運輸・観光業界は大打撃を被りました。国連世界観光機関によれば、世界の観光業界における2020年上半期の損失は約48兆円にのぼり、これはリーマンショック(世界的な金融危機)後の2009年の損失の約5倍に当たるといいます。境港からのフェリーも集客の見通しが立たないとして、2020年の4月に廃業が決定してしまいました。