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2018.03.04 理路整然
 「理路整然」

 「理路」とは考え方の筋道のこと。「整然」とは秩序正しく整っている様を表します。この二つの熟語が合わさって、文章や話について「前提から結論までの順序がしっかりと構成されていて、論理的に展開される様」を意味する四字熟語となったのですね。「理路整然と話をする」というのは、私にとって常に心がけていることでもあります。けれども、「それだけではいけない!」ということを、強烈に意識させられた思い出もあります。
 私が大学生の頃、東大の駒場には新進気鋭の政治学者のM先生がいらっしゃいました。ゼミも大人気でしたが、それよりも当時始まったばかりのテレビの討論番組にレギュラーで出演されることとなって話題になっていました。舌鋒鋭く世相を斬ってみせることで評判になり、回を重ねるごとに発言も強気になっていく。そんな様子をリアルタイムでみていたのでした。討論の司会者からも「Mさんは理路整然と話をしてくれるので」と信頼され、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでした。思い出というのは、今でも忘れることができないその討論番組のワンシーンのことなのです。討論のテーマは「戦後政治の総決算」的な内容だったと思います。中曽根長期政権が終了して政治情勢が不安定化し始めた時期でした。経済的にはバブルに向かう絶頂期だったのです。ではその討論のシーンを再現してみましょうか。太平洋戦争を経験した小説家でもある論者のNさんが、言葉を選びながらゆっくりと話をしていました。イメージを手繰り寄せるように、訥々と。話しながらも、いやそうじゃないな、こうでもないな、と行きつ戻りつしながら、懸命に考えている様子なのでした。その発言の最中、それをさえぎるようにM先生は理路整然と話し始めたのです。「あなたの言っていることは結局こうでしょ」と。取りも直さずと言わんばかりに、Nさんの話を勝手に代弁しはじめたのです。確かに、視聴者として聞いていた私は、「なるほど、そういうことか」と納得するような内容でした。ところが、当のNさんは「違う、そうじゃない!」と怒りをあらわにしたのです。発言を否定されたM先生が言い放った言葉が衝撃でした。「あなたが言えないから、私が代わりに正しく言ってあげているんでしょう!いい言葉で!」
 私が衝撃を受けたのは、この「いい言葉で!」という物言いです。まさしくその「いい言葉」を探し求めることを生業としている小説家に対して、なんという言い種なのか!傲慢にもほどがある、と。文学を志していた当時の私は、この法学部的な「いい言葉」という考え方に強く反発を覚えました。さすがに討論の司会者も「Mさん、あなたは理路整然と話をするが…」と、批判したのでした。それは人間性に問題がある、という意味ですよね。理路整然は大切ですが、それによって失ってはいけない要素もあるということは理解しなくてはならないと胸に刻んだのでした。何十年後かにM先生を都知事選で応援することになるとは夢にも思いませんでしたが。
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