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 長崎県壱岐市「気候非常事態宣言」

 今回紹介するのは長崎県壱岐市で制定された宣言になります。いつもは「条例」を取り上げていますが、今回は「宣言」です。では宣言というのは何でしょうか?自治体の出す宣言は「都市宣言」とも呼ばれ、特定のテーマについて、その自治体がどのように取り組もうとしているのかを示すものになります。例えば、モータリゼーション(自動車が生活必需品として普及すること)が進展し、それに伴う交通死亡事故が増加した時代には、全国各都市で「交通安全都市宣言」が制定されました。また、世界的に平和運動が広がりをみせた時代には、「非核都市宣言」「平和都市宣言」などが多くの自治体で制定されました。
 地方議会が議決すべきことがら(議決事件といいます)を定めている地方自治法第 96 条では、宣言は議決事件とはなっていません。ですが、自治体が重視している地域課題を表現するとともに、それに対して積極的に取り組もうとしていることを表明するのが宣言ですから、議会の議決を前提にしている例も多いのです。今回紹介する、日本で初となる「気候非常事態宣言」も、議決によって制定されました。2019年の9月25日、壱岐市議会において可決、承認されたのです。
 エメラルドグリーンの海、新鮮な魚介類。九州の北西沖に浮かぶ島、長崎県壱岐市は観光地としても人気のスポットです。壱岐の周辺は玄界灘とよばれる海域で世界有数の漁場でもあります。対馬海流が流れているため気温の変化は緩やかであり、年間を通して多くの観光客が訪れます。壱岐へのアクセスは、佐賀県の唐津東港からは42km、福岡県の博多港からは76km、同じ長崎県の対馬の厳原からは68km、長崎空港からは94kmになります。ですから長崎県の壱岐ではありますが、佐賀県に一番近いところに位置しているともいえます。またフェリーの便数が最も多いのは博多港からで、長崎港からはフェリーは出ていません。アクセスの起点は福岡県だともいえます。では、なぜ壱岐市が長崎県に所属しているのでしょうか。さかのぼること明治時代、それは廃藩置県に起因します。壱岐は江戸時代には平戸藩に所属しており、平戸藩が長崎県に編入されたことから壱岐も長崎に同時に編入されたということのようです。
 さらに歴史をさかのぼると、壱岐は大変な危機を迎えたことがありました。時は鎌倉時代、元寇とよばれる「国難」に直面しました。文永・弘安の役ともいわれ、当時の資料的表現では「蒙古襲来」ということになります。ユーラシア大陸史上最大の国土を保有したモンゴル帝国が、朝鮮半島を通じて日本に攻め込もうとしてきました。その侵攻の順路となったのが壱岐なのです。壱岐には元の大軍が上陸しました。当時の島民のほとんどが殺害されたといいます。壱岐の芦辺港の近くには、馬に乗った若武者の像が立てられています。その人物の名は少弐資時、19歳にして壱岐をまもって戦死した武人です。壱岐神社では今も島の守護神として祀られています。資時の父である少弐経資は、鎮西御家人を指揮して異国警固番役を勤め、元寇に際しては軍事最高責任者として防戦に活躍した人物です。
 さて、そうした歴史をもつ壱岐で制定されたのが「気候非常事態宣言」です。この宣言を世界で最初に制定したのは、オーストラリアにあるデアビン市になります。2016年に議決されました。その後、欧米を中心に拡大し、現在では世界中で2000をこえる国や地域、組織が宣言を出しています。では、壱岐市が全国に先駆けて宣言を出したきっかけは何だったのでしょうか。壱岐市総務部 SDGs未来課にお話を伺いました。
 「壱岐市が気候非常事態宣言を出した背景には、まず気候変動による自然災害が顕著になってきたことがあります。さらに、海水温の上昇により魚の住処となる藻場が大幅に減少しており、2017年の漁獲量を10年前と比較すると6割も減少したことになります。漁業を主な産業とする壱岐市にとっては大打撃で、藻場を回復させる取り組みも行っていますが、気候変動問題を解決しなければ根本的な解決はできないと考えました」とおっしゃいます。環境面だけではなく、地域の経済面にも影響を及ぼしつつあることが今回の宣言につながったのだといえるでしょう。宣言文では、2050年までにCO2排出量を実質的にゼロにすることが打ち出されました。その方策としては、再生可能エネルギーの活用、省エネルギー、そして4Rの推進をあげています。4Rとは、リフューズ(REFUSE)・リデュース(REDUCE)・リユース(REUSE)・ リサイクル(RECYCLE)の4つの英語の頭文字「R」をとったものです。ごみを減らして、環境にやさしい社会をつくるキーワードになっています。
 しかしながら、気候変動の問題を一自治体だけで解決することは困難です。そのため宣言は「日本政府や他の地方自治体に、気候非常事態宣言についての連携を広く呼びかけます」という一文で結ばれています。「宣言を機に市民の関心を高め、さらには、SDGs未来都市に選定された自治体などとも連携しながら取り組みをすすめていきたいです」と語ってくださいました。
壱岐市の気候非常事態宣言が出された二日前、ニューヨークの国連本部で行われた演説で当時16歳のグレタ・トゥンベリさんが「温暖化対策に失敗すれば、あなたたちを決して許さない」と、各国首脳に対して訴えました。国連のグテレス事務総長が主催して開かれた「気候行動サミット」においてです。将来世代を守るためには行動をおこさなくてはなりません。連携を呼びかける気候非常事態宣言は、将来世代への返答の一つなのかもしれません。
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