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 新潟県妙高市「希少野生動植物保護条例」

 今回紹介するのは新潟県妙高市で制定された条例です。妙高市は新潟県の南西部、長野県との県境に位置しています。同じ新潟県では上越市と糸魚川市に、長野県では飯山市と長野市とも接していますよ。新潟県の妙高市と上越市と糸魚川市は3市合わせて「上越地方」とも呼ばれています。新潟県を地理的に4つの地域に区分した場合の1つにあたります。他の3つは「下越地方」「中越地方」「佐渡地方」ですね。これはかつて新潟県が越後国と呼ばれていたことに由来し、都である京都に近い方から「上越後」「中越後」「下越後」と区分されていたことによります。「上越後」を略した「上越」が新潟県南西部の地域名として用いられるようになったのです。
 ここで混乱が生じてしまう場合がありますのでご注意下さい!それは「上越」に、もう一つの意味があるからです。上野国(こうずけのくに)と呼ばれた群馬県と、越後国と呼ばれた新潟県を合わせて「上越」と称する呼び方のことです。東京から大宮、高崎を経て、新潟へとつながっている「上越新幹線」は、この「群馬」+「新潟」の意味での「上越」が使われているのです。そしてややこしいことには、「上越妙高駅」という新幹線の駅が存在するのですが、これは上越新幹線の駅ではありません!長野を経て金沢までつながっている「北陸新幹線」の駅になるのです。もちろんこの「上越妙高駅」は妙高市に隣接する上越市にあります。ぜひ地図帳で、上越新幹線と北陸新幹線の路線を確認してみて下さい。新潟県は二つの新幹線が「併存」しているのですよ。今回取り上げる妙高市は北陸新幹線のルート上にあるのです。
 東京駅(東京都千代田区)と金沢駅(石川県金沢市)を約2時間半で結ぶ北陸新幹線です。その走行ルートは、「加賀百万石」で知られる前田家の参勤交代のルートに沿ったものになっているというと驚くでしょうか。加賀藩前田家は、金沢から北国街道(ほっこくかいどう)を抜けて、追分宿(現在の軽井沢町)で中山道へと合流し、江戸へとむかう参勤交代ルートをとっていました。その距離は約480キロメートルで、12泊13日の行程だったといわれています。北国街道は江戸幕府によって整備された脇街道ですが、「善光寺街道」という別名があるように、善光寺への参拝のために整備が進みました。さらには佐渡の金を江戸に運ぶための産業道路として、五街道に次ぐ重要な役割を果たしていました。
 妙高市の名前の由来ともなっている妙高山は「妙高戸隠連山国立公園」に含まれます。2015年に32番目となる国立公園として誕生した新しい国立公園になります。四季折々の美しい景観を見せる妙高山ですが、特に有名なのが「跳ね馬」と呼ばれる雪形(ゆきがた)です。雪形というのは、山に積もった雪が春になってとけはじめ、白い残雪と黒い岩肌とのコントラストが山腹にあらわれることによって、さまざまな姿(鳥や馬や蝶など)に見える模様のことを指しています。妙高山では、妙高市側から眺めると、まるで馬が力強く跳ねているように見える雪形が現れるのです。例年、4月中旬頃になると現れるこの「跳ね馬」は、昔から上越地方で春の農耕の始まりを告げる目安とされてきました。現在でも風物詩として観光名所にもなっていて、妙高市の体育館(「はね馬アリーナ」)や鉄道の沿線名(「妙高はねうまライン」)などに「跳ね馬」の名称が使用されるほど、地元で親しまれています。
 豊かな自然が残る「妙高戸隠連山国立公園」は、国の天然記念物であり絶滅危惧種にも指定されているライチョウの生息地にあたります。また、ヒメギフチョウやゴマシジミ、オオルリシジミなどの貴重な昆虫類が分布し、オキナグサヤマシャクヤクなどのめずらしい草本植物も自生しています。ところがこうした野生動植物は、その希少性の高さから、マニアが捕獲・採集しようとするケースが相次ぎ、さらにはインターネット等で高額で取り引きされる、いわゆるネットオークションにかけられるといった事例も発生しています。環境省が取引を控えるよう、オークション大手の業者に通知を行ったことがニュースにもなりました。
 そうした状況をふまえ、国においては「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(略称:種の保存法)」で保護を図るものの、妙高市でも独自に市内に生育する希少動植物を守るために条例を制定したのです。対象となる動植物については、国と県のレッドデータブックなどを参照し、市で環境審議会を開催して専門家に意見を聞き、指定を行いました。オキナグサなど植物6種、ヒメギフチョウなど昆虫9種、ライチョウなど鳥類5種、キタノメダカなど魚類2種の計22種類になります。これらの捕獲、採取、殺傷、損傷を禁止し、条例に違反した場合、1年以下の懲役か、50万円以下の罰金が科せられるというものです。それが令和3年4月1日付けで施行された「妙高市希少野生動植物保護条例」になります。「この条例は、希少な野生動植物が妙高市の自然環境の重要な構成要素の一つであるとともに市民の貴重な財産であり、その保護が生物多様性を確保していく上で欠かすことができないものであることに鑑み、市内に生息し、又は生育する希少な野生動植物を保護し、次代へ継承していくことを目的とする。」とあります。
 市は条例施行後、希少動植物が生息する付近や登山口など約10カ所に「捕獲・採取禁止」と書かれた看板を設置し、市職員や関係者が保護監視活動を行っています。個体数や種類の調査も継続して行われています。妙高市は「人と自然が調和しすべての生命を安心して育むことができる地域」という意味である「生命地域(バイオリージョン)」の創造を掲げて、希少生物保護への理解を呼びかけています。
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